精密加工

超音波振動切削

超音波振動切削法 ( ultrasonic vibration cutting ) は、バイト、ドリルあるいはエンドミルなどの切削工具に超音波領域の周波数数十 kHzおよび振幅数~十数μm程度の超音波振動を付与しながら切削する加工法の総称である。特殊切削や精密切削法の一つに位置づけられる。特に、低速切削での加工精度向上、低剛性工具による切削、あるいは特殊な工作物に対する精密切削に有効であるとされている。

詳細

 超音波振動切削法で用いられる各種の振動方向を図1に示す。通常の切削においては、工具と工作物との相対運動である切削速度 \( v \) のみにより切削が行われるが、超音波振動切削法においては、それに振動運動 \( ( f, a ) \) が追加される。超音波振動切削においては、切削速度に対する振動方向が切削特性に大きく影響を与えることになる。切削方向と同方向の振動 \( ( f, a_c ) \) は、バイトでの切削において多く利用されている方法で、振動の動きが切削面に与える影響が最も少なく、原則的な振動方向であるとされている。この切削法に関しては、隈部淳一郎博士により多くの研究がなされ、切削の原理、効果、あるいは実用装置が明らかにされている[1]

 切削機構の概要を図2に示す。切削工具を切削方向と同方向に正弦波振動させて、振動の最大速度 \( v_v (=2 \pi af ) \) を切削速度 \( v \) よりも大きくすることにより、切削と非切削とが周期的に繰り返され、超音波領域での断続切削となる。すなわち、一般的に超音波振動切削を成立させるためには、\( v \lt 2 \pi af \) の関係を満足させる。振動最大速度が切削速度に対して高いほど、この切削法の効果がより顕著になってくる。切削抵抗は振動周期 \( T \) 毎に断続的に発生するパルス状の断続切削機構となる。このとき1パルスごとの正味切削時間を \( t_c \) とするとき、振動周期 \( T \) に占める正味切削時間 \( t_c \) の割合 \( t_c/T \) は切削特性を決定づける重要な因子である。この \( t_c/T \) は通常の利用範囲 \( ( v ≦ v_c / 3 ) \) では、振動速度 \( v_c \) に対する切削速度 \( v \) の割合 \( v /v_c \) にほぼ等しい。すなわち、前述のように、切削速度が低いほど切削特性が向上するので、生産性と加工精度とのバランスにより切削速度の条件が決定される。

 超音波振動切削により一般的に期待される効果は次のようになる。

  1. 切削力低減(低剛性の工具あるいは工作物の弾性変形は慣用切削に比べて \( t_c/T \) 低減)
  2. 低速領域における構成刃先低減など切削面品位向上
  3. 切削温度低減
  4. だれやかえりの低減
  5. 切りくず排出性の向上

 一方、留意点は、断続切削機構となるため、刃先のチッピングが誘発されやすい点、振動方向によっては切れ刃の逃げ面が切削面と干渉して切削面性状が悪化する点、あるいは装置コストが高い点などがあげられる。

 小径工作物の切削、チタン合金などの難削材の切削、あるいは超精密切削加工などに適用される。最近では、小径ドリル加工、エンドミル加工、あるいは小径砥石による研削に適用され、各種精密金型加工や高硬度脆性材料の加工などヘの適用されている[2,3]

関連項目

外部リンク

引用

  1. 隈部淳一郎:精密加工振動切削-基礎と応用-(1979),実教出版
  2. 鬼鞍宏猷, 神雅彦:やさしい超音波振動応用加工技術(2015),養賢堂
  3. 超音波振動加工技術 ~装置設計の基礎から応用~(2017),科学情報出版
執 筆 : 神 雅彦

PV数 : 562