生体力学

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生体力学 ( biomechanics ) とは、生体の構造や運動を力学領域から解明したり、あるいは解明した結果を医学や工学の技術開発に応用したりする学問領域である。

目次

詳細

背景

近年日本が世界で最も早く高齢社会へと本格的に移行するといわれ、日本が世界に誇る工学技術を医療福祉分野へ応用する研究が注目されている。ここでは、生体力学の学問領域が非常に重要となり、生体がもつ構造や運動の本質を理解し、その本質を力学領域で正確に解明することが必要とされる。 生体力学に関連する事項として、現代医療が提唱する科学的根拠(Evidence-Based-Medicine)による臨床評価、生体がもつ機能を応用したロボット技術の開発、工学技術を用いた最新医療技術の開発等が挙げられる。具体的な学会活動を外部リンクに記載する。

概論

生体力学は、生体がもつ構造や運動を力学領域から解明する領域と、解明された結果を医学や工学に応用する領域とがあるが、重要なことは、それぞれの領域の目的を明確にしておくことである。 一般に、力学には剛体力学、流体力学、熱力学、材料力学、機械力学、運動力学等様々な学問領域がある。そのため、生体力学では、各力学の目的(何を解析するための学問なのか)と各力学がもつ解析方法論を十分理解しておく必要がある。  例えば、魚の泳ぎを生体力学で解明する場合を考えてみる。ここでは、魚が泳ぐ原理を力学で解析することが目的となる。まず泳ぎの運動と構造を分析する。泳ぎの運動には魚が全身で実現する運動(通常はS字形となる)と鰭が実現する運動(例えば、漕ぐ、回す)とがあり、泳ぎの構造には魚がもつ筋構造、筋配列、さらには鰭の位置や鱗の形状等がある。次に運動と構造の相互関係から泳ぎの原理を解明する。ここで重要なことは、運動と構造を予め定量化しておくことである。例えば、S字形の泳ぎはある時刻ごとに示すS字形の変形量を測定することでS字形の泳ぎを定量化できる。また泳ぎは運動(動的な変化)であるため、泳いでいる魚の速度や加速度を測定することで魚の泳ぎを定量化できる。一方、構造である筋構造と筋配列は魚の解剖により定量化できるが、一旦魚を解剖すると、筋構造と筋出力との関係が測定できなくなるため、解剖手順を検討する必要がある。 よって、定量化された運動と構造より、泳ぎの原理が力学的に解明できる。つまり、泳ぎの速度はS字形の変形量に関係し、S字形の変形量は筋構造と筋出力の変化によって定義できる。このように、泳ぎの原理が力学的に解明できると、別の魚の泳ぎを見ても、両者の泳ぎの違いを定量的に分析できることになる。 以上より、生体力学は、生体がもつ構造や運動に潜在する原理を力学によって定量化して解明することだといえる。そして、解明された原理によって、生体がもつ構造や運動の本質が再現できれば、まさに現代医療が求めるEBMによる臨床評価が実現できる。

課題

生体力学を学ぶ研究者は、まず力学の目的を理解し、次に生体の構造や運動の本質を理解し、そして力学で生体の構造や運動を定量的に解明することの意味を理解する必要がある。  しかし、現在ヒトの四肢運動に関する生体力学に問題が提起されている。つまり、ヒトの四肢運動は殆どがロボット工学の関節座標系による関節トルク力学系で解析され、ヒトの四肢が普遍的にもつ二関節筋が全く考慮されていないのである。 ヒトの四肢運動の本質は、1つの関節に跨る一関節筋と2つの関節に跨る二関節筋がそれぞれ拮抗した筋構造とそれぞれを協調制御させる筋運動とにある。そのため、運動障害やリハビリ等に関わる理学療法士らの現場では、四肢運動を関節トルク力学体系で解析した結果がヒトの四肢出力と異なることに違和感をもってきた。しかし、現在ヒトの運動の本質を理解した二関節筋力学体系が提唱され、同力学体系による研究結果が先の違和感を解消させている。  日本では「高品質な医療福祉技術の実現」が不可欠であり、そのためには、生体がもつ構造や運動の本質を理解し、その本質を正しい力学体系で解明することが必要である。つまり、生体力学の課題として、ヒトの四肢運動では生体力学を現行の関節トルク力学体系から二関節力学体系へ見直し段階にあるといえる。 [1] [2]

関連項目

  • バイオメカニクス
  • 力学(剛体力学、流体力学、熱力学、材料力学、機械力学、運動力学)
  • 科学的根拠(EBM)
  • 医用生体工学
  • 医療工学
  • 福祉工学
  • 二関節筋

外部リンク

引用

  1. 熊本水頼(編著)、精密工学会生体機構制御・応用技術専門委員会(監修): ヒューマノイド工学―生物進化から学ぶ2関節筋ロボット機構、東京電機大学出版局
  2. 奈良 勲(監修):二関節筋 運動制御とリハビリテーション、医学書院