材料・表面プロセス

大気圧プラズマ化学輸送法(APECT)

大気圧プラズマ化学輸送法 ( Atmospheric-pressure Plasma Enhanced Chemical Transport:APECT ) は、粘性流反応性プラズマ中で生成される高密度な反応性ラジカルと固体原料の化学反応によって、固体原料を構成する元素をガス化し、基板側に輸送することにより、危険・毒性のある原料ガスを用いることなく機能性薄膜を形成する技術である[1]

薄膜原料ガスを必要としない薄膜形成法としてスパッタ蒸着法が周知されているが、一般的に高圧~大気圧で動作するプラズマ中のイオンは、平均自由行程が非常に短くなるため、個々の粒子の持つ運動エネルギが小さく、物理的スパッタリングによる成膜は容易ではない。

APECT法は、スパッタ蒸着法の簡便さ・安全性(装置・プロセス)とCVDに類似の成膜素過程を兼ね備えた成膜法である。

詳細

シリコン成膜の場合

図1近接型APECT法の概念

図1には、Si膜の形成を例としたAPECT法の一例を示している。この例では、水素プラズマ中で発生した原子状水素とSi原料との化学反応により揮発性の反応生成物(SiH4)が生成される。このSiH4が、原料基板間の濃度勾配により基板側へ拡散輸送され、プラズマ中で分解活性化されることで、基板上へSi膜が形成される。プロセス圧力の高圧化は、ラジカル親分子(ここではH2)の多量供給に寄与するだけでなく、狭ギャップ化された原料基板間での安定なプラズマ生成にも寄与する。これまでに、Si膜の低基板温度(<400oC)にて、高速形成(>20nm/s)がなされている。

他の材料への適用例

Ge、SiGe、3C-SiC[2,3]、カーボンナノチューブ、ダイヤモンド[4]等の各種機能薄膜の形成、金属級Siからの金属不純物除去[5]、モノシランのオンサイト生成[6,7]、フルオロカーボン原料ガスを用いないドライエッチング[8]などが実証されている。

外部リンク

引用

  1. H. Ohmi et al., J. Appl. Phys. 102, 023302 (2007).
  2. H. Ohmi et al., Thin Solid Films 519 (2010) 11-17.
  3. H. Ohmi et al., J. Phys. D: Appl. Phys. 44, 235202(8pp) (2011)
  4. 伊藤拓望 他, 2022年度 精密工学会春季大会学術講演会講演論文集 196.
  5. H. Ohmi et al., Appl. Phys. Lett. 95 (2009) 181506-1-3.
  6. N. Takei et al., J. Phys D: Appl. Phys. 51 (2018) 245203 (10pp).
  7. H. Ohmi et al.,J. Physics D: Appl. Phys. 49 (2016) 035202(10pp).
  8. H. Ohmi et al., J. Electrochem Soc. 157 (2010) D85-D89.
執 筆 : 大参 宏昌

PV数 : 145