精密加工

単発放電

単発放電 ( Single Discharge ) とは、ただ1回の放電現象のことをさす。

詳細

図2 炭素鋼(+)側に生成した放電痕
図1 炭素鋼(―)側に生成した放電痕

 絶縁液中で電極と被加工材を数~数十µmの間隔で対向させ、パルス電圧を印加すると絶縁破壊が生じ、放電が発生する。この単一のパルス電圧の印加で発生する1回の放電のことを「単発放電」と呼ぶ。

 実験的に単発放電を発生させるには、電極と被加工材の距離を数µm程度に保持して100V程度の単一パルスをFETなどのスイッチング素子を用いて印加すると、ただ1回の放電が発生する。電極側の極性、パルス印加時間、電極材料や被加工材の組合せを変化させると、生成される単発放電痕の性状も異なり、大きさや除去量に変化が生じる。古くは倉藤らの研究[1]や、宇野らの論文[2]に報告されている。各種条件における放電痕形状を詳細に観察することにより、単発放電における材料除去過程を含めた推察が進められてきた。あるいは最近では、単発放電現象のシミュレーションモデルを構築し、被加工材側の材料除去過程を含めた解析が可能になってきている[3]

 実際の単発放電痕を、図1、図2に一例を示す。図1はタングステンの細線電極を用いて放電加工油中で、電流値50A、パルス幅64µs、電極極性(+)の条件で炭素鋼表面(―)に生成した単発放電痕のSEM写真である。図2は電極極性を(―)に入れ替えた場合の、(+)極側となる炭素鋼表面に形成された放電痕である。極性の違いにより、生成される放電痕形状に大きな違いが生じていることが分かる。どちらも、周囲には溶融部が飛散しきれずに付着した盛り上がりが存在する。写真の条件では、細線電極と平板工作物の組合せで 単発放電を発生させているため、生成する気泡は半球状となる。一方、通常の形彫り放電加工では、 ある程度の大きさを持った電極で工作物を加工するため、発生した気泡は狭い極間を水平方向に拡大し、さらに連続的に放電が発生する。放電痕の形成に気泡内部の圧力分布の変化や、溶融部内部の温度圧力分布など複雑に作用すると考えられており、加工液の種類や極間距離などを含め、放電痕形状に与える要因は多い。最近では、発生する気泡の挙動を 高速度ビデオカメラで撮影することで、溶融材料の飛散タイミングを推察する研究も試みられている。

関連項目

引用

  1. 倉藤尚雄, 向山芳世,高速放電加工の研究,精密機械,Vol.31, No.2, pp.166-171(1965).
  2. 宇野義幸,遠藤修,中島利勝,単発放電痕の生成機構に関する基礎的研究,電気加工学会誌,Vol.25, No.49, pp.12-22(1991).
  3. Li, Q., Yang, X., Kunieda, M., Observation of EDM gap phenomena of single pulse discharge under different environments, Procedia CIRP, Vol.113, pp.87-92(2022).
執 筆 : 武沢 英樹

PV数 : 33