カーボンオニオン ( Carbon onion ) は複数のグラフェンシートが同心球殻状に閉じた構造をしたナノカーボン粒子である。
カーボンナノチューブに単層と多層のものが存在するが、多層のフラーレン類似物質とみることもできる。
透過型電子顕微鏡で観察した断面像が野菜の玉ねぎの断面に似ていたため、カーボンオニオンと呼ばれるようになった。ほかにグラファイト状オニオン、多層フラーレン、オニオン状炭素粒子、フラーレンオニオン、オニオンライクカーボンなど多くの名称がある。
詳細
歴史
1992年、スイス連邦工科大学ローザンヌ校のUgarte博士が透過型電子顕微鏡ですすを観察中、通常の観察時より高いエネルギーの電子線を照射した際にすすがカーボンオニオンに構造変化することを発見し、Nature誌上で報告した[1]。
生成法
以下の方法でカーボンオニオンが生成されることが報告されている。
- すすやナノダイヤモンド粒子への電子線照射[2,3]
- 加熱した銀、銅などへのカーボンイオン打ち込み[4]
- ナノダイヤモンド粒子、カーボンブラックなどの不活性雰囲気中でのアニーリング[5,6]
- 気相合成[7]
- グラファイト電極を用いた水中でのアーク放電[8]
- 炭化物の加熱処理 ( Carbide Derived Carbon )[9]
特性、応用
- 殻の層数、殻形状(球形、多角形)、中心殻の状態(大きさ、コアの結晶構造、中空の程度)の点で構造の多様性を有している。例えば、アニーリングでは原料カーボン粒子の大きさにより生成するカーボンオニオンの層数すなわち大きさが異なり、さらにアニーリングの温度によって殻形状や中空の程度が変化する。
- 空気中、真空中を問わず潤滑特性を発揮することが実験的に明らかにされている[10]。これは理想的な構造では最外グラフェン層にダングリングボンドがなく、他物質との相互作用が小さくなるのが要因と推測されている。
- まず固体潤滑材料としての適用が期待されている。そのほかの応用分野としてナノスケール砥粒[11]、電極材料[12]、ドラッグデリバリーシステムなどが提案され、研究されている。
外部リンク
引用
- D. Ugarte: Curling and Closure of Graphitic Networks under Electron-beam Irradiation, Nature, 359 (1992) 707.
- D. Ugarte, Chem. Phys. Lett., 207 (1993) 473
- Lu-C. Qin and S. Iijima, Chem. Phys. Lett., 262 (1996) 252
- T. Cabioc’h, J.P. Riviere and J. Delafond, J. Mater. Sci., 30 (1995) 4787
- W.A. Heer and D. Ugarte, Chem. Phys. Lett., 207 (1993) 480
- V. L. Kuznetsov, A.L. Chuvilin, Y.V. Butenko, I.Yu. Mal’kov and V.M. Titov, Chem. Phys. Lett., 222 (1994) 343
- N. Hatta and K. Murata, Chem. Phys. Lett., 217 (1994) 398
- N. Sano, H. Wang, M. Chhowalla, I. Alexandrou and G.A.J. Amaratunga, Naure, 414 (2001) 506
- M. McNallan,D. Ersoy, R. Zhu, A. Lee, C. White, S. Welz, Y. Gogotsi, A. Erdemir, A. Kovalchenko, Tsinghua Sci. Technol., 10 (2005) 699
- A. Hirata, M. Igarashi, T. Kaito: Study on Solid Lubricant Properties of Carbon Onions Produced by Heat Treatment of Diamond Clusters or Particles, Tribology International, 37 (2004) 899.
- 向後博康,平田 敦:カーボンオニオンの砥粒への適用,精密工学会誌,77, 3 (2011) 311-315.
- D. Pech, M. Brunet, H. Durou, P. Huang, V. Mochalin, Y. Gogotsi, P.-L. Taberna, P. Simon,Nature Nanotechnol., 5 (2010) 651
執 筆 : 平田 敦
