中性子スーパーミラー ( Neutron Supermirror ) とは、低速の中性子線を大きな全反射臨界角で効率よく反射するための金属多層膜であり、中性子ビーム輸送、整形、偏極等に用いられる。
詳細


冷中性子線と呼ばれる低速の中性子線は、軽元素や同位体を高いコントラストで識別可能であるなど、電荷を持たない粒子ならではのユニークな特性を持ったプローブであり、物質構造解析をはじめ、イメージング、基礎物理実験まで幅広く利用されている。しかし、冷中性子線には線源から試料までの効率的な輸送が困難であるという問題がある。これは、冷中性子線がより高エネルギの中性子線を減速材に通すことよって実験に適した温度まで冷やすことで得られるという性質上、指向性がないためである。冷中性子線の輸送の問題を解決する中性子反射光学素子が中性子スーパーミラーである。中性子スーパーミラーはフェルミポテンシャルの差が大きい二種類の金属(最も一般的なものはNi/Ti)を、厚みを変化させながら交互に積層した金属多層膜であり、主にスパッタ装置で成膜される[1]。これら金属の各対層が異なるブラッグ条件を満たす中性子を反射するために、幅広い帯域の中性子を反射することが可能である(図1)。中性子実験施設においては、この中性子スーパーミラーを筒状構造の内壁に備えた中性子導管により、冷中性子線を線源から各実験装置まで輸送している。また、近年では高い形状精度を持つ平滑な曲面に中性子スーパーミラーを成膜することにより、試料に冷中性子線を集束させるための中性子集光ミラー[2-4]の開発も進められており、実際の中性子散乱実験装置にも実装されている[5](図2)。
引用
- M. Hino et al., “The ion beam sputtering facility at KURRI: Coatings for advanced neutron optical devices”, Nucl. Instum. Methods Phys. Res. A, 797, pp. 265-70 (2015).
- K. Yamamura et al., “Figuring of plano-elliptical neutron focusing mirror by local wet etching”, Opt. Express, 17(8), 6414-20 (2009).
- T. Hosobata et al., “Development of precision elliptic neutron-focusing supermirror”, Opt. Express, 25(17), 20012-24(2017).
- T. Hosobata et al., “Elliptic neutron-focusing supermirror for illuminating small samples in neutron reflectometry,” Opt. Express 27, 26807-20 (2019).
- N. L. Yamada et al., “Application of precise neutron focusing mirrors for neutron reflectometry: latest results and future prospects,” J. Appl. Cryst. 53 (2020).
執 筆 : 細畠 拓也