バニシング加工 ( Burnishing ) とは、機械加工された粗い面を持つ工作物に対し、高硬度材でできた円筒あるいは半球形状などの工具を押し付け、押しならすことで滑らかな仕上げ面を得る加工法です。これは、工作物表面の微小な塑性変形を利用した仕上げ加工法であり、バニシング効果自体は古くから知られています。
詳細
バニシング加工は工作物のサイズ、形状、表面仕上げ、または表面硬度を改善するために機械加工後の工作物に使用されます。バニシングの利点には、表面性上の向上、疲労強度の改善、腐食及び応力腐食の防止、潤滑性を改善するための表面のテクスチャリング、多孔性表面の平滑化、表面への圧縮残留応力の付加などがあります。
バニシング加工は局部的に高い圧力を付加できるバニシング工具を使用し、工作物表面の微小な面積において降伏応力を超える力を付加し、微小な塑性変形を逐次的に行うことにより平滑面を得る加工方法です。

図1は、バニシング加工の原理図を示しています。ローラー式バニシング加工は、バニシング工具が加工時に工作物の回転に伴って回転するのに対し、チップ式バニシング加工では回転しません。バニシング加工は工作物に対し一定の押し込み量を与えることで生じる押し込み力によってバニシング加工を行っています。この押し込み力を工作物の硬度に合わせて制御することで、仕上げ面の粗さと表面性状を制御します。
多くのバニシング工具は専用の工作機械を必要とせず、汎用旋盤やNC旋盤に取り付けて使用することが可能です。
動画1は機械加工後の規則的なカスプを持つ工作物表面がバニシング加工により平滑化されていく様子を顕微鏡と高速度カメラによって撮影した様子です。素性変形による平滑化作用をわかりやすくするために縦倍率は5倍に設定されています。バニシング工具が通過するとカスプが押しならされて平滑化していく様子がわかります。
バニシング加工後の工作物表面には強い圧縮残留応力が付与されており、工作物表面にはバニシングによる改質層が生じます。これにより表面硬度の向上や耐摩耗性や疲労強度の向上といった表面改質硬化が得られます。図2はステンレス鋼(SUS306)にバニシング加工を付加し、断面を観察しやすいように腐食させて撮影したものです。表面からおよそ60マイクロメートルの深さまで、バニシング加工による結晶粒の微細化が確認できています。また高度向上や耐摩耗性向上、疲労強度向上と言った表面改質効果も同様の深さまで行えています。
バニシング加工にはいくつかの形式がありますが、最も一般的なのはローラーバニシングとボールバニシングです。どちらの場合も、バニシング工具が工作物に接触し、その表面を塑性変形させます。ローラーバニシング加工及び回転型ボールバニシング加工は回転摩擦接触ですが、ボールバニシング加工には滑り摩擦接触によるものがあります。バニシング工具は通常、寿命を延ばすために高硬度材料で製作され、特殊な材料でコーティングされている場合もあります。
ローラーバニシング加工は円筒形、円錐形、または円盤状の工具が使用されます。工具はローラーベアリングに似ており、バニシング工具ホルダ先端のケージ内で回転します。ローラーバニシング加工の一般的な用途には、比較的低硬度材料の表面仕上げ加工に用いられます。1つのローラーによる円筒形状用のバニシング工具や複数のローラーを平面に放射状に並べた平面用バニシング工具もあります。
ボールバニシング加工は研削、ホーニング、研磨などの他のボア仕上げ操作の代わりになります。高硬度の球状のバニシング工具を圧入し、ガンバレルなどの細長い穴の僅かなボア拡張を行う事例もあります。また、ボールバニシングは、バリ取り作業としても使用されることもあります。
滑り摩擦接触によるボールバニシング加工の一例として、ダイヤモンドチップ式バニシング工具があります。回転摩擦接触式のバニシング工具ではアルミ合金、銅合金、軟鋼などの比較的低硬度材料のバニシング加工が可能ですが、高炭素クロム鋼やベアリング鋼などの高硬度鋼材には対応していません。ダイヤモンドチップ式バニシング工具はHRC65程度の熱処理した高硬度鋼材までバニシング加工を行うことができます。
バニシング効果は機械加工プロセスでもある程度発生します。旋削では、切削工具が摩耗している、あるいは鋭くない場合、大きな負のすくい角を使用する場合、非常に浅い切削深さを使用する場合、または被削材が粘着性である場合に、バニシング効果が発生します。切削工具が摩耗するにつれて、バニシング効果はより顕著になります。切削工具の逃げ面を利用し、能動的にバニシング効果を得る切削工具もあります。研削では、砥粒がランダムに配向し、鋭くないものもあるため、常にある程度のバニシング状態にあります。これは研削の効率が低く、旋削よりも多くの熱を発生する理由の1つです。
外部リンク
執 筆 : 田中 秀岳
