「M推定」の版間の差分

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==詳細==
 
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 M推定には以下の2つの問題がある。第1に、推定値を解析的に計算できず繰り返し演算が必要なため計算コストが大きい。第2に、外れ値がない場合の推定値が最小2乗法の推定値に一致しない。
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 最小2乗法は、観測値と推定値の誤差を2乗し、その総和を最小にする評価基準を用いる。このため大部分の観測値から乖離した外れ値があると、誤差は2乗で大きくなり推定値に影響を与える。
 M推定の問題を解決するため、高速M推定では損失関数に凹型偶関数である2次Bスプライン基底関数を用いる[1]。M推定が損失関数の総和を最小にする評価値を求めるのに対し、高速M推定は損失関数の総和を最大にする評価値を求める。2次Bスプライン基底関数の幅はM推定の定数Cの定数倍である。損失関数の総和は2次Bスプライン基底関数の線形和である2次Bスプライン曲線となり、矩形関数を観測値に3回連続で畳み込むことにより高速計算できる。また、2次Bスプライン曲線の最大値を与える推定値は解析的に計算できる。一方、外れ値がない場合の損失関数の総和は凹型2次関数となり、その最大値を与える推定値は最小2乗法で求める推定値に一致する。
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 粗さ用ローパスフィルタに高速M推定を用いたロバストガウシアンフィルタが用いられており、高速計算可能なだけでなく、外れ値のない観測値に対しては従来のガウシアンフィルタと同一の出力を与える[2]。
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 そこで、外れ値があっても推定値に影響を及ぼさないような評価基準が必要であり、この評価基準を用いた推定法をM推定という。M推定はロバスト推定の1つである。誤差関数である損失関数には凸型の偶関数が用いられ、中心からの距離が定数C以下では概ね2次以上の増加関数である。一方、これを超えると1次関数(HuberのM推定法<ref name="ref1">P. J. Huber, Robust estimation of a location parameter, Annals of Mathematics, 35, 73-101, 1964.</ref>)または1次関数より傾斜のゆるい関数、あるいは一定値(Biweight法<ref name="ref2">A. E. Beaton and J. W. Tukey, The fitting of power series, meaning polynomials, illustrated on band-spectroscopic data, Technometrics, 16, 147-185.</ref>)となる。損失関数を微分して影響関数、それを中心からの距離で割りウェイト関数を得る。最小2乗法ではウェイト関数は常に1になるが、M推定では中心からの距離がCを超えると減少するか0になる。
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 計算手順は、まず最小2乗法等で推定値の初期値を求める。これを基に各観測値との誤差を計算し、ウェィト関数を使って観測値の重みを調整する。この重みを適用した重み付き最小2乗法を解き推定値を更新する。この処理を推定値が一定値に収束するまで繰り返し、M推定値を得る。
  
 
==関連項目==
 
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*[[高速M推定]]
 
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==引用==
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==外部リンク==
  
[1] 加藤邦人,金子俊一,沼田宗敏: ロバスト画像処理の新展開, 精密工学会誌, Vol. 75, No. 02, pp.237-245, (2009.02).
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*[http://openweb.chukyo-u.ac.jp/mshimizu/IRLab/numada_lab/contents_index.html 中京大学工学部機械システム工学科沼田研究室]
[2] 近藤雄基,沼田宗敏,輿水大和,神谷和秀,吉田一朗:ロバスト性調整可能な高速M推定ガウシアンフィルタ,精密工学会誌, Vol. 82, No. 3, 272-277 (2016.3).
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2019年12月27日 (金) 13:50時点における最新版

 M推定「M-estimation」は、ロバスト推定の有力な手法の一つである。

目次

詳細

 最小2乗法は、観測値と推定値の誤差を2乗し、その総和を最小にする評価基準を用いる。このため大部分の観測値から乖離した外れ値があると、誤差は2乗で大きくなり推定値に影響を与える。

 そこで、外れ値があっても推定値に影響を及ぼさないような評価基準が必要であり、この評価基準を用いた推定法をM推定という。M推定はロバスト推定の1つである。誤差関数である損失関数には凸型の偶関数が用いられ、中心からの距離が定数C以下では概ね2次以上の増加関数である。一方、これを超えると1次関数(HuberのM推定法[1])または1次関数より傾斜のゆるい関数、あるいは一定値(Biweight法[2])となる。損失関数を微分して影響関数、それを中心からの距離で割りウェイト関数を得る。最小2乗法ではウェイト関数は常に1になるが、M推定では中心からの距離がCを超えると減少するか0になる。

 計算手順は、まず最小2乗法等で推定値の初期値を求める。これを基に各観測値との誤差を計算し、ウェィト関数を使って観測値の重みを調整する。この重みを適用した重み付き最小2乗法を解き推定値を更新する。この処理を推定値が一定値に収束するまで繰り返し、M推定値を得る。

関連項目

外部リンク

引用

  1. P. J. Huber, Robust estimation of a location parameter, Annals of Mathematics, 35, 73-101, 1964.
  2. A. E. Beaton and J. W. Tukey, The fitting of power series, meaning polynomials, illustrated on band-spectroscopic data, Technometrics, 16, 147-185.