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'''滑水性'''(Sliding of water droplets, Slipperiness of Water dropletsあるいはHighly Water Removabilityなど)とは,固体表面での水滴の転落しやすさを指す.
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<b>滑水性</b> ( Sliding of water droplets, Slipperiness of Water dropletsあるいはHighly Water Removabilityなど ) とは,固体表面での水滴の転落しやすさを指す.
  
 
==詳細==
 
==詳細==
<span style="margin-right: 1em;"></span>固体表面の性質の一つに,液体に対する濡れ性がある.着滴,着氷防止や防汚といった用途での実用化のため,濡れ性の制御に関する研究が盛んに行われている.固体表面の濡れ性は,接触角を用いて評価されることが多い.水滴に対する固体表面の接触角が大きい状態を疎水性あるいははっ水性という.着滴防止などの用途においては,水滴がいかに短時間で転落するか,すなわち滑水性が高いことが要求される.接触角が大きいはっ水性と,表面から水滴が転落しやすい滑水性は必ずしも同一の現象ではない <ref>三輪将史,中島章,光触媒機能をもつ透明超はっ水・超滑水膜,工業材料,Vol. 48, No. 6, pp. 53-56, 2000.</ref>.<BR><BR>
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固体表面の性質の一つに,液体に対する濡れ性がある.着滴,着氷防止や防汚といった用途での実用化のため,濡れ性の制御に関する研究が盛んに行われている.固体表面の濡れ性は,接触角を用いて評価されることが多い.水滴に対する固体表面の接触角が大きい状態を疎水性あるいははっ水性という.着滴防止などの用途においては,水滴がいかに短時間で転落するか,すなわち滑水性が高いことが要求される.接触角が大きいはっ水性と,表面から水滴が転落しやすい滑水性は必ずしも同一の現象ではない<ref>三輪将史,中島章,光触媒機能をもつ透明超はっ水・超滑水膜,工業材料,Vol. 48, No. 6, pp. 53-56, 2000.</ref>.
==滑水性の評価==
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滑水性は,固体表面を傾けたときに固体表面上の水滴が転落を開始する傾斜角度(転落角)や,その際の水滴と固体表面がつくる前進-後退接触角の差(接触角ヒステリシス)により評価される.傾斜固体表面上を移動している水滴の速度(転落速度)もしくは加速度(転落加速度)により評価する例もある.<BR><BR>
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==接触角ヒステリシスと転落角==
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滑水性の解析については,Furmidge<ref>C. G. L. Furmidge, Studies at Phase Interfaces I. The Sliding of Liquid Drops on Solid Surfaces and a Theory for Spray Retention, Journal of Colloid Science, Vol. 17, No. 4, pp. 309- 324, 1962.</ref>の式が知られている.質量mの水滴の転落角αは,
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mgsinα=wγL(cosθr - cosθa)            (1)
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で表される.ここで,wは固体表面固有の値とされ,γLは水の表面張力である.前進接触角θaと後退接触角θrの差,ここでは(cosθr - cosθa)を接触角ヒステリシスと称する.この式で明らかなように,滑水性を高めるためには,接触角ヒステリシスを小さくすればよいのだが,接触角ヒステリシスの変化の要因は表面粗さや物理的化学的不均一性が原因とされており,詳細は明らかになっていない.<BR><BR>
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==滑水性についての報告==
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滑水性は,超はっ水性や動的はっ水性,疎水性と関連付けて報告されることがある.ここでは,滑水性と記述のある報告について紹介する.
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成澤<ref>成澤郁夫,超疎水性高分子,化学と教育,Vol. 47, No. 1, pp. 32-33, 1999.</ref>は,ポリシロキサンチンをグラフトしたフッ素化樹脂被膜では接触角は80°前後と小さいが転落角は10µLの水滴で2°以下と滑水性がきわめて良好であると述べている.
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三輪ら<ref>C. G. L. Furmidge, Studies at Phase Interfaces I. The Sliding of Liquid Drops on Solid Surfaces and a Theory for Spray Retention, Journal of Colloid Science, Vol. 17, No. 4, pp. 309- 324, 1962.</ref>は,昇華性のあるアセチルアセトンアルミニウムをあらかじめ膜に仕込んでおき,熱処理によりこれを昇華させて表面粗さを付与し,さらにその表面をフッ素系シランで処理することで,7µLの水滴の転落角が約1°という超滑水性を示したと報告している.
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村瀬[4]は,フッ素系の主鎖にシリコーン系側鎖をもつグラフトコポリマーを合成し,この疎水基中に少量の親水基を導入することで,10µLの水滴の転落角が5°という超滑水性を示したと報告している.
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渡部ら[5]は,チタニア,ハフニア,アルミナ,ジルコニアの薄膜をスパッタリング法で作成しポストプラズマ処理で滑水性を高めることで転落角数十度程度という高度な滑落性を発現させることに成功したと報告している.
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吉田ら[6]は,アルミナ,ジルコニア,ハフニア,セリア,酸化亜鉛の透明薄膜をウェットプロセスにより作製し,恒温恒湿条件下(40°C,90%RHD)では,この薄膜がはっ水・滑水へ変化することを報告している.
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;滑水性の評価
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:滑水性は,固体表面を傾けたときに固体表面上の水滴が転落を開始する傾斜角度(転落角)や,その際の水滴と固体表面がつくる前進-後退接触角の差(接触角ヒステリシス)により評価される.傾斜固体表面上を移動している水滴の速度(転落速度)もしくは加速度(転落加速度)により評価する例もある.
  
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;接触角ヒステリシスと転落角
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:滑水性の解析については,Furmidge<ref>C. G. L. Furmidge, Studies at Phase Interfaces I. The Sliding of Liquid Drops on Solid Surfaces and a Theory for Spray Retention, Journal of Colloid Science, Vol. 17, No. 4, pp. 309- 324, 1962.</ref>の式が知られている.質量mの水滴の転落角αは,
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:mgsinα=wγL(cosθr - cosθa)            (1)
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:で表される.ここで,wは固体表面固有の値とされ,γLは水の表面張力である.前進接触角θaと後退接触角θrの差,ここでは(cosθr - cosθa)を接触角ヒステリシスと称する.この式で明らかなように,滑水性を高めるためには,接触角ヒステリシスを小さくすればよいのだが,接触角ヒステリシスの変化の要因は表面粗さや物理的化学的不均一性が原因とされており,詳細は明らかになっていない.
  
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;滑水性についての報告
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:滑水性は,超はっ水性や動的はっ水性,疎水性と関連付けて報告されることがある.ここでは,滑水性と記述のある報告について紹介する.
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:成澤<ref>成澤郁夫,超疎水性高分子,化学と教育,Vol. 47, No. 1, pp. 32-33, 1999.</ref>は,ポリシロキサンチンをグラフトしたフッ素化樹脂被膜では接触角は80°前後と小さいが転落角は10µLの水滴で2°以下と滑水性がきわめて良好であると述べている.
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:三輪ら[1]は,昇華性のあるアセチルアセトンアルミニウムをあらかじめ膜に仕込んでおき,熱処理によりこれを昇華させて表面粗さを付与し,さらにその表面をフッ素系シランで処理することで,7µLの水滴の転落角が約1°という超滑水性を示したと報告している.
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:村瀬<ref>村瀬平八,超滑水表面の分子設計とその利用,高分子,Vol. 49, No. 5, p. 304, 2000.</ref>は,フッ素系の主鎖にシリコーン系側鎖をもつグラフトコポリマーを合成し,この疎水基中に少量の親水基を導入することで,10µLの水滴の転落角が5°という超滑水性を示したと報告している.
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:渡部ら<ref>渡部俊也,横田幸信,吉田直哉,横西遼祐,今井隆晶,大倉利典,無機酸化物滑水性コーティングガラスの開発,自動車技術,Vol. 63, No. 6, pp. 96-97, 2009.</ref>は,チタニア,ハフニア,アルミナ,ジルコニアの薄膜をスパッタリング法で作成しポストプラズマ処理で滑水性を高めることで転落角数十度程度という高度な滑落性を発現させることに成功したと報告している.
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:吉田ら<ref>吉田直哉,横西遼祐,今井隆晶,中村勇二,門倉遼,仝玉進,叶深,渡部俊也,大倉利典,Preparation of Hydrophobic Metal Oxide Films, Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan, Vol. 20, No. 366, pp. 275-281, 2013.</ref>は,アルミナ,ジルコニア,ハフニア,セリア,酸化亜鉛の透明薄膜をウェットプロセスにより作製し,恒温恒湿条件下(40°C,90%RHD)では,この薄膜がはっ水・滑水へ変化することを報告している.
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==関連項目==
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*[[濡れ性]]
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==引用==
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2018年1月10日 (水) 09:48時点における最新版

滑水性 ( Sliding of water droplets, Slipperiness of Water dropletsあるいはHighly Water Removabilityなど ) とは,固体表面での水滴の転落しやすさを指す.

詳細

固体表面の性質の一つに,液体に対する濡れ性がある.着滴,着氷防止や防汚といった用途での実用化のため,濡れ性の制御に関する研究が盛んに行われている.固体表面の濡れ性は,接触角を用いて評価されることが多い.水滴に対する固体表面の接触角が大きい状態を疎水性あるいははっ水性という.着滴防止などの用途においては,水滴がいかに短時間で転落するか,すなわち滑水性が高いことが要求される.接触角が大きいはっ水性と,表面から水滴が転落しやすい滑水性は必ずしも同一の現象ではない[1]

滑水性の評価
滑水性は,固体表面を傾けたときに固体表面上の水滴が転落を開始する傾斜角度(転落角)や,その際の水滴と固体表面がつくる前進-後退接触角の差(接触角ヒステリシス)により評価される.傾斜固体表面上を移動している水滴の速度(転落速度)もしくは加速度(転落加速度)により評価する例もある.
接触角ヒステリシスと転落角
滑水性の解析については,Furmidge[2]の式が知られている.質量mの水滴の転落角αは,
mgsinα=wγL(cosθr - cosθa)            (1)
で表される.ここで,wは固体表面固有の値とされ,γLは水の表面張力である.前進接触角θaと後退接触角θrの差,ここでは(cosθr - cosθa)を接触角ヒステリシスと称する.この式で明らかなように,滑水性を高めるためには,接触角ヒステリシスを小さくすればよいのだが,接触角ヒステリシスの変化の要因は表面粗さや物理的化学的不均一性が原因とされており,詳細は明らかになっていない.
滑水性についての報告
滑水性は,超はっ水性や動的はっ水性,疎水性と関連付けて報告されることがある.ここでは,滑水性と記述のある報告について紹介する.
成澤[3]は,ポリシロキサンチンをグラフトしたフッ素化樹脂被膜では接触角は80°前後と小さいが転落角は10µLの水滴で2°以下と滑水性がきわめて良好であると述べている.
三輪ら[1]は,昇華性のあるアセチルアセトンアルミニウムをあらかじめ膜に仕込んでおき,熱処理によりこれを昇華させて表面粗さを付与し,さらにその表面をフッ素系シランで処理することで,7µLの水滴の転落角が約1°という超滑水性を示したと報告している.
村瀬[4]は,フッ素系の主鎖にシリコーン系側鎖をもつグラフトコポリマーを合成し,この疎水基中に少量の親水基を導入することで,10µLの水滴の転落角が5°という超滑水性を示したと報告している.
渡部ら[5]は,チタニア,ハフニア,アルミナ,ジルコニアの薄膜をスパッタリング法で作成しポストプラズマ処理で滑水性を高めることで転落角数十度程度という高度な滑落性を発現させることに成功したと報告している.
吉田ら[6]は,アルミナ,ジルコニア,ハフニア,セリア,酸化亜鉛の透明薄膜をウェットプロセスにより作製し,恒温恒湿条件下(40°C,90%RHD)では,この薄膜がはっ水・滑水へ変化することを報告している.


関連項目

引用

  1. 三輪将史,中島章,光触媒機能をもつ透明超はっ水・超滑水膜,工業材料,Vol. 48, No. 6, pp. 53-56, 2000.
  2. C. G. L. Furmidge, Studies at Phase Interfaces I. The Sliding of Liquid Drops on Solid Surfaces and a Theory for Spray Retention, Journal of Colloid Science, Vol. 17, No. 4, pp. 309- 324, 1962.
  3. 成澤郁夫,超疎水性高分子,化学と教育,Vol. 47, No. 1, pp. 32-33, 1999.
  4. 村瀬平八,超滑水表面の分子設計とその利用,高分子,Vol. 49, No. 5, p. 304, 2000.
  5. 渡部俊也,横田幸信,吉田直哉,横西遼祐,今井隆晶,大倉利典,無機酸化物滑水性コーティングガラスの開発,自動車技術,Vol. 63, No. 6, pp. 96-97, 2009.
  6. 吉田直哉,横西遼祐,今井隆晶,中村勇二,門倉遼,仝玉進,叶深,渡部俊也,大倉利典,Preparation of Hydrophobic Metal Oxide Films, Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan, Vol. 20, No. 366, pp. 275-281, 2013.