精密加工

レーザスライシング

レーザ光線が材料を透過する特性と、吸収される特性を同時に利用することで、材料内部にレーザ照射による変質層を形成し、これを基に剥離させる加工法をレーザスライシングと呼ぶ。ダイヤモンドやSiC、GaNなどの半導体基板材料、レンズ用ガラス材料などへの適用が期待されている。

詳細

1.社会的ニーズ

 従来、硬脆材料のスライシング加工は薄刃砥石やワイヤーによってなされてきた。しかし、材料の大口径化に伴って、薄刃砥石では対応できず、またマルチワイヤソーでは長時間を要している。また、高価なインゴットの半分近くが機械加工では切屑となるため、材料ロス、環境負荷も問題である。加えて工具摩耗や工具破損、加工精度や加工変質層などの課題も挙げられる。とくにGXに伴うEV化、DXに伴う膨大なデータの蓄積には、パワー半導体デバイス基板が欠かせない。そのため、とくに半導体材料の高速で精密な加工技術が求められている。

2.原理

 材料に対して透過性と吸収性を併せ持つレーザ光線は、材料内部で焦点を絞ることで内部加工痕を形成することができる。レーザスライシングは、スライスしたい面に沿って面状に加工痕を連続形成するため、材料剥離を可能にしている。通常、結晶材料では劈開性を利用し、アモルファス材料では熱膨張による引張応力を利用して剥離させている。

3.特長

図1 シリコンのレーザスライシングにおける原理図

 材料内部から剥離させるため、基本的には加工屑は生じず、カーフロスは機械加工の1/10以下となる。材料内部にレーザ光が到達するまでにレーザによる材料ダメージは生じない。図1に示すように、スライス面と垂直な方向にレーザ入射するため、ウエハなど口径がいくら大きくなっても影響を受けない。また、光は数百、数千の多分岐化が容易なため、加工装置にそのような光学系を搭載すれば、いくらでも加工効率は向上することが期待される。
 さらに、機械的なスライシングでは、平面にスライスすることしかできないが、レーザは焦点を三次元に走査できるため、変質層を材料内部で自由曲面に形成でき、微細パターニングと剥離を同時に行えるメリットも実証されている。

4.実施事例

 レーザスライシングは埼玉大学と信越ポリマーによって世界で初めて実現した技術である[1]。シリコン[2]や3次元パターニングの同時成形[3]、サファイア[4]、炭化珪素[5]、酸化マグネシウム[6]、ガラス[7]など多くの材料で実証されている。半導体結晶材料では大口径のウエハ製造プロセスへの導入に向けた開発が進められている。光学ガラスや石英ガラスでは、剥離面を自由曲面でナノレベルの粗さにできるため、非球面ガラスレンズなどの製造技術として期待されている。

外部リンク

引用

  1. 伊東宏季,池野順一,鈴木秀樹,国司洋介,YAGレーザを用いたシリコンの薄化技術(第2報),2010年度精密工学会春季大会学術講演論文集,825~826,2010.
  2. 山田洋平,池野順一,鈴木秀樹,「単結晶シリコンの精密レーザスライシング技術」精密工学会誌,85-5,426-431,2019.
  3. 関根大輔,池野順一,篠塚信裕,鈴木秀樹,3次元レーザスライシングに関する研究,2013年度精密工学会春季大会学術講演論文集,597-598,2013.
  4. 茶花幸一,池野順一,サファイアのレーザスライシングに関する研究,2011年度精密工学会春季大会学術講演論文集,159~160,2011.
  5. 山田洋平,池田知陽,池野順一,「SiCの精密レーザスライシング 第1報:カーフロスを考慮したスライシング法の検討」砥粒加工学会誌,64-12,635-642,2020.
  6. 山田洋平,池野順一,鈴木秀樹,野口仁,「レーザスライシングによるダイヤモンド成長基板MgOの薄化技術」日本機械学会論文集,87-896,21-00022,2021.
  7. 阿部達毅,山田洋平,池野順一,鈴木秀樹「3次元レーザスライシングによるガラス光学素子の作製」精密工学会誌,85-5,419-425,2019.
執 筆 : 池野 順一、山田 洋平

PV数 : 125